負け犬、勝ち犬とは?

負け犬の遠吠え (講談社文庫)

負け犬の遠吠え (講談社文庫)

●「負け犬の遠吠え」● ★★   婦人公論文芸賞講談社エッセイ賞  
2003年10月
講談社
(1400円+税)

2006年10月
講談社文庫化

酒井さん言うところの“負け犬”とは、狭義には未婚・子ナシ・30代以上の女性のことであり、広義には普通の家庭を築いていない女性のこと。
なにも勝ち・負けと決め付けなくてもと思うのですが、「無理矢理にでも(勝ち負けに)分けてしまうと単純に面白い」というのがこの遠吠えエッセイの所以。

確かに読み始めると、ウンウンと頷き、面白く感じることが実に多い。ついつい、30代以上独身女性の同僚を思い浮かべ(ゴメンナサイ)、比較実証しながら読んでしまうのです。
そもそも負け犬とは、本人たちの自虐ではなく、世間の目が(優越感をもって)そう我々を見ている事実があると言う。...判るなぁ。
負け犬ストーリーは、小説に「ブリジット・ジョーンズの日記」、ドラマに「アリー・myラブ」等あり。また、オスの負け犬を分類してみせるかと思えば、メスの負け犬も向田邦子系と長谷川町子系に分類し、女性政治家は自民党に前者が多く社会党に後者が多いと語る発展的負け犬論も傾聴に値します。
そんなアレコレにいちいち頷きつつ、最後にはそんなことどうでもいいじゃないかと思うに至るのが、本書の魅力・爽快感。仕事をもつ女性にはお薦めの名エッセイではないかと思う次第。

余はいかにして負け犬のなりし乎/負け犬発生の原因/コラム・負け犬ストーリー/負け犬の特徴/コラム・オスの負け犬/負け犬の処世術/負け犬と敗北/負け犬にならないための10ヵ条/負け犬になってしまってからの10ヵ条

職業柄か研究所、広告代理店勤務なのか、分析が細かく鋭いなぁと思う。
当事者は何気なく装ったり、言葉にしたりすることを見事に、「勝ち犬」「負け犬」という言葉で分類して解釈してみせたと思う。
多くの(この本の意味での負け犬、勝ち犬にあたるひとたち)人は、なんらかの要素でこれのどちらかにあてはまるよう、やや強引に定義されている。
ある種逃げ道がないようにどんどん定義を膨らましていっているので、私は○○○○じゃない!とはいえなくなっている。
負け犬になることの必然性、負け犬のメリット、デメリット、勝ち犬のメリット、デメリットを現実の生活面からしっかり書かれている。
男はこんなこと考えないなぁ、みたいな女のフリや行動心理について書かれていて面白い。
女は年をとるごとに恐くなるというのも、なんだか分かる。
イヤ汁ってのも、なんか品がないけれども良い比喩だなと思う。
女性として生きていくうえで、葛藤になるだろうことがたくさん書かれていて、これは男性がもっと読むべき書物だと思う。
ただいえるのは、結婚しようが、しまいが、子どもを生もうが、精神的な変化はあろうと長い目でみたら、そんなにどちらが価値があるとかいえなそう。
子どもを産めば価値があり幸せかというと違うだろう。
産みたくなくても産んでしまった人や、それこそ邪魔扱いされて育ってきた人もいる。
人間の環を存続させることこそが崇高とは僕は思えない。
確かに、人間は他の動物と違って、感情を持ち、理性をもち、多くのことをなしえたわけだが、でもそれって、それだけじゃんとも思う。
そう考えると、子どもを産んで、世のためになるっていうのは確かに、社会保障の面やなんらからみればそうかもしれないけれど、ちゃんと考えてみるとそこには序列はない。
産んでしっかり育てていきたいなら、それは女性にとって自信や価値になるかもしれないけれど、まあしなくても他のことやって自身や価値を見出せるならそれでもよいだろう。